最初期の多細胞生物化石?ガボン大型生物とは何か

大学地学

みなさんこんにちは

今回は今もなお議論が続く謎の化石、ガボン大型生物(francevillian biota)についてまとめました。

この化石は2010年にアフリカのガボンで見つかったもので、21億年前のものであるとわかっています。

その産状から最初期の真核生物の多細胞生物化石ではないかと言われていますが、多くは分かっていません。

そんなガボン大型生物について今わかっていることを一緒に見ていきましょう。

ガボン大型生物の産地

ガボン大型生物はガボン共和国のオートオゴウェ州、フランスヴィル(Franceville)(マスクとも呼ばれる)近郊で発見されました。また、周辺都市のオコンジャ(Okondja)からも発見が報告されています。

ガボンはアフリカのギニア湾沿いにある国家で、赤道ギニア、カメルーン、コンゴ共和国に囲まれます。

フランスヴィルの周辺地図

オコンジャの周辺地図

フランスヴィルはガボン南東部にあります。

フランスヴィルのあるフランスヴィル盆地にはFranceville層群という地層が分布しており、オコンジャにも同じ地層が分布しています。

ガボン大型生物はこのFranceville層群のFB層という地層の上部より発見されています。

FB層は頁岩、炭酸塩岩からなる地層であるようです。

ガボン大型生物の年代

ガボン大型生物の産出するFranceville層群FB層の年代は、貫入するN’Goutou複合岩体中のジルコンの年代から、2191±13Ma(Maは100万年前の意)より古く(Sawakiら,2017)、FB層中のFB1cユニット(ガボン大型生物の産する層より古い)中のイライトの年代は2099 ± 115 Maを指しています。つまり、およそ21億年前ごろの化石となります。

アノマロカリス(anomalocaris)をはじめとしたバージェス動物群は510Maごろ、最初期の単細胞真核生物ではないかと言われているグリパニア(grypania)の年代が21億年前といわれているので、ガボン大型生物が多細胞生物であった場合、従来思われていたより早い段階で多細胞生物が出現したということになります。

ガボン大型生物の化石

ガボン大型生物の化石は最大12㎝(Albaniら,2010)で、扁平な形をしています。周りに7~120 mmほどの突起があります。また、外縁にひだ状のものが一周しています。

By Ventus55 – Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=33158469

大型というとメートル単位のものを想像した人もいたかもしれませんが、通常この時代の化石は岩石中に含まれる微細なものであるため、かなり大きいものと言えます。

By Abderrazak El Albani et al. – El Albani, A. et al. (2014) “The 2.1 Ga Old Francevillian Biota: Biogenicity, Taphonomy and Biodiversity” PLoS One, volume 9, issue 6, article e99438, page 6, figure 3, doi: 10.1371/journal.pone.0099438 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4070892/, CC BY-SA 3.0 nl, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=125398271

化石自体は黄鉄鉱で置換されています。

ガボン大型生物に関する議論

ガボン大型生物とされる化石は本当に化石なのか

ガボン大型生物は疑化石なのではないかという説があります。疑化石は実際の化石ではなく、他の自然現象によってできた化石のような見た目のものです。

化石は地球の歴史や生物の進化に関する重要な情報を含んでいますが、疑化石はそのような情報を持たないため、注意が必要なのです。

ガボン大型生物の化石とされるものは黄鉄鉱の形態の一つであるパイライト・サンではないかという説があります。

Rob Lavinsky, iRocks.com – CC-BY-SA-3.0, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10138987による

これがパイライト・サン

ただ、この説に関してはガボン大型生物の化石の内部構造をCTスキャンしたところ、パイライト・サンよりも曲線的で織り込まれた構造が多くみられ、この構造について説明できないため議論が続いています。

ガボン大型生物の分類は何か

一旦、ガボン大型生物の化石が生物の化石と仮定し、話を進めます。ガボン大型生物の化石はどの生物に分類されるのでしょうか。現状ではわかっていないのですが、主に2つの説があります。

多細胞の真核生物説

ガボン大型化石は真核生物ではないかと言われています。

ガボン大型化石からは真核生物の細胞壁に見られるステロール化合物が含まれており、大きなサイズと構造の複雑さから多細胞の真核生物という説があります。

真核生物の誕生には様々な条件が必要とされます。具体的には以下の通りです(澤木ら,2019)。

  • 十分な酸素濃度
  • 海洋に供給されるCuやZnなどの遷移金属濃度の上昇
  • 強還元的環境
  • 適切な塩分濃度
  • 遺伝子の獲得

これらについて、フランスヴィル層群は条件を満たしているというのです。

酸素濃度については23~24億年前に起きた大酸化イベント(GOE)によって酸素濃度が上昇し、十分な酸素濃度があり、FB層中の黒色頁岩に含まれるモリブデン濃度から強還元的環境であることが分かり、原生代の大陸の増加により塩分濃度が現在と同程度まで減少したことが分かっています。

遺伝子の獲得については当時の宇宙放射線が強かったことなど、放射線が現在より強いことが進化を加速し、遺伝子を獲得したのではないかという説があります。(Svensmark,2006)

ただ、一方でステロール化合物が検出されたのは後の生物によるものである可能性が否定されていません。

微生物の群集説

ガボン大型生物の化石は、現代の生物とは異なる見た目をしているため、多くの微生物が集まって形成する微生物の群集ではないかという説があります。

先カンブリア時代の多くの地層からは様々な微生物マット(微生物のマット状の群集)が見つかっています。例えば、シアノバクテリアが形成するストロマトライトは代表的な微生物マットとして知られています。

そのため、ガボン大型生物もこれらと同じ微生物の群集なのではないかということです。

しかしながら、微生物マットによく見られるような堆積によってできるような構造が見られないため、ガボン大型生物の化石は微生物マットとは異なるのではないかと言われています。(Albaniら,2010)

オクロの天然原子炉との関係

By MesserWoland – Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=1799684 図中の①の部分が天然原子炉

Franceville層群のFB層の上位層であるFA層からは天然原子炉が見つかっています。この場所はオクロの天然原子炉と呼ばれています。

天然原子炉とは地層中で物質が原子炉のように継続して核分裂を起こすような場所のことです。このような環境は稀で、現在のところ天然原子炉はガボン以外で発見されていません。

オクロの天然原子炉はFA層中にウランが濃集し、リフト(マントル上昇により引き裂かれるような地形)の活動によって流体の循環が起きたことによって形成されたと考えられています。

オクロの天然原子炉によって暖められた熱水と放射線のエネルギーが生命の活動できる場を形成し、天然原子炉の放射線がゲノムの進化を進めたことにより真核生物が誕生したのではないかという説があります。

非常にロマンのある話ですが、そもそもガボン大型生物が真核生物なのか分かっていないため、まずはそこからという感じです。

加えて、放射年代測定でオクロの天然原子炉の活動年代がFB層の堆積年代と1億年程度のずれがあるため、今後も検討が必要です。

他にも発見されている最初期の多細胞生物候補

2017年には南アフリカで24億年前の菌類の化石のようなものが見つかっており、これが最古の多細胞生物ではないかと言われていますが、これも確定的ではありません。

参考資料

Amy Maxmen,”Ancient macrofossils unearthed in West Africa”,Nature,30 June 2010発行,doi:10.1038/news.2010.323

Abderrazak El Albani , Stefan Bengtson, Donald E. Canfield, Armelle Riboulleau, Claire Rollion Bard, Roberto Macchiarelli, Lauriss Ngombi Pemba, Emma Hammarlund, Alain Meunier, Idalina Moubiya Mouele, Karim Benzerara, Sylvain Bernard, Philippe Boulvais, Marc Chaussidon, Christian Cesari, Claude Fontaine, Ernest Chi-Fru, Juan Manuel Garcia Ruiz, François Gauthier-Lafaye, Arnaud Mazurier, Anne Catherine Pierson-Wickmann, Olivier Rouxel, Alain Trentesaux, Marco Vecoli, Gerard J. M. Versteegh, Lee White, Martin Whitehouse, Andrey Bekker,”The 2.1 Ga Old Francevillian Biota: Biogenicity, Taphonomy and Biodiversity”,PLoS One,9,6,2014,doi:10.1371/journal.pone.0099438

澤木 佑介, 佐藤 友彦, 藤崎 渉, 上田 修裕, 浅沼 尚, 丸山 茂徳,”天然原子炉周囲の地質と真核生物誕生場”,地学雑誌,1284,p.549-569,2019,doi:10.5026/jgeography.128.549

佐藤 友彦, 澤木 佑介, 丸山 茂徳, 斎藤 誠史, 松井 洋平,”ガボン・フランスヴィル盆地における前期原生代有機炭素・窒素同位体層序:大型化石出現後の嫌気的環境”,日本地質学会学術大会講演要旨,2016,10.14863/geosocabst.2016.0_320

Tomohiko Sato, Yusuke Sawaki, Shigenori Maruyama,”Paleoproterozoic Research: Oxygenation and the appearance of Gabon multicellular biota”,Annual Meeting of the Geological Society of Japan,2015,https://doi.org/10.14863/geosocabst.2015.0_085

Yusuke Sawaki, Mathieu Moussavou, Tomohiko Sato, Kazue Suzuki, Cédric Ligna, Hisashi Asanuma, Shuhei Sakata, Hideyuki Obayashi, Takafumi Hirata, Amboise Edou-Minko,”Chronological constraints on the Paleoproterozoic Francevillian Group in Gabon”,Geoscience Frontiers,8,2,p.397-407,2017,https://doi.org/10.1016/j.gsf.2016.10.001

R. Bros, P. Stille, F. Gauthier-Lafaye, F. Weber, N. Clauer,”Sm-Nd isotopic dating of Proterozoic clay material: An example from the Francevillian sedimentary series, Gabon”,Earth and Planetary Science Letters,113,1-2、p207-218,1992,https://doi.org/10.1016/0012-821X(92)90220-P

Donald E. Canfield, Lauriss Ngombi-Pemba, Emma U. Hammarlund, Stefan Bengtson, Marc Chaussidon, François Gauthier-Lafaye, Alain Meunier, Armelle Riboulleau, Claire Rollion-Bard, Olivier Rouxel, Dan Asael, Anne-Catherine Pierson-Wickmann, and Abderrazak El Albani,”Oxygen dynamics in the aftermath of the Great Oxidation of Earth’s atmosphere”,PNAS,110 ,42, p.16736-16741,https://doi.org/10.1073/pnas.1315570110

H. Svensmark,”Cosmic rays and the biosphere over 4 billion years”,Wiley Online Library,2006,https://doi.org/10.1002/asna.200610651

コメント

タイトルとURLをコピーしました