地球の内部構造知る手段として、重力異常を計測するという方法があります。この重力異常とはどのようなものでしょうか? わかりやすく解説しようと思います!
そもそも…重力とは何か?
そもそも重力とは何でしょうか? 簡単に説明すると、地球が中心に向かって物を引き付ける力です。
物と物が引き合う力である「万有引力」とまぜこぜになってしまう人も多いと思いますが、重力は万有引力から地球の自転による遠心力を差し引いたものです。
万有引力の公式
$$F=G\frac{Mm}{r^2}$$
これはつまり、地球と地球に引かれる物体で表すと、
$万有引力=万有引力定数\frac{地球の重さ×地球に引かれる物体の重さ}{地球の中心からの距離^2}$ ということです。
ここからわかる万有引力の性質
1.質量が大きいものほど万有引力は大きくなる
2.物と物の距離が近いほど万有引力は大きくなる

この性質は重力異常を知るうえで重要な性質です!
そして地球における重力は
万有引力-遠心力で求められます!
ちなみに、遠心力の公式は$F=mω^2r$で、$遠心力=物体の質量(地球上に置かれた物体)\times 角速度の2乗 \times 原点からの距離(地球の中心からの距離)$ という意味です。
重力異常を知るうえで必要な用語
重力異常は補正された重力と標準重力の差のことを言うのですが、補正? 標準重力? といきなり言われても分かりにくいと思うので、まず標準重力と重力補正を解説します!
標準重力
標準重力はジオイド上で計測される重力のことです。このジオイドは海を陸地まで延長した際の仮想上の海水面のことです。

地球の重力は実は一様ではなく、密度の高い、重いものが地下にあるとその上では重力が大きくなり、逆だと小さくなります。

重力が大きいと多くのものを引き付けるので、海水が引き付けられて、その場所の海水は周りよりも盛り上がります。逆だとへこみます。(図)


重力が強いところは盛り上がっており、重力が小さいところはへこんでいます。
重力補正
物質があることで重力は変化します。そのため、陸地ではジオイドより上にある物質によって重力が大きくなり、計測された重力を補正する必要があります。この補正を重力補正といいます。
重力補正にはいくつかの方法があります。
重力補正の方法
フリーエア(Free-air)補正
重力は標高によって大きさが変わります(地球の中心からの距離が変わるため)。
観測点の標高による重力への影響を取り除き、ジオイド上の大きさに補正する方法です。

Free-air補正なので、高さがあるイメージですね。
フリーエア補正の式(大学レベルなので参考までに)
go=g+0.3086mGal/m×h(m)
独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構[JOGMEC] 2008 フリーエア異常[ふりーえあいじょう] フリーエア異常 [ふりーえあいじょう]|JOGMEC石油・天然ガス資源情報ウェブサイト
go…フリーエア補正重力値(フリーエア補正された重力の大きさ)
g…実測重力値(計測された重力の大きさ)
h…標高
この式は観測点の標高が高くなると実測重力より補正された重力(ジオイド上の重力の大きさ)のほうが大きくなり、低くなると、実測重力より補正された重力のほうが小さくなることを示しています。
地形補正
地形の起伏によって重力の大きさは変化します。例えば、山のふもとでは山を構成する物質による引力の影響を受けます。
この影響を補正するために、地形による起伏が高いところを低く、起伏が低いところを高くすることでなだらかな平面を作ります。この補正が地形補正です。


地形補正後の重力の大きさは補正したなだらかな平面上のもので、ジオイド上の値ではないので注意しましょう!
ブーゲー補正
重力は地下の物質の密度の違いによって大きさが変わります。そこで、仮に観測点からジオイドまで一定密度の物質(大陸地殻の岩石2.67g/cm3)が分布しているとして、この物質の影響を取り除き、ジオイド上の大きさに補正する方法がブーゲー補正です。

ブーゲー補正はフリーエア補正された値にさらに補正をかけて行います。
ブーゲー補正の式(大学生レベルなので参考までに)
go=g+0.3086mGal/m×h(m)-2πGρh
赤線部はフリーエア補正、黄線部はブーゲー補正
G(万有引力定数) ρ(大陸地殻の岩石の密度) h(観測点標高)

ブーゲー補正のブーゲーは17世紀のフランス人数学、天文学者のピエール・ブーゲにちなんでいます!
補正の順番
通常重力を補正するときは、上記3つの組み合わせます。
補正の順番は
地形補正(起伏の影響)→ブーゲー補正(密度の影響)→フリーエア補正(高度の影響)
重力異常とは
そろそろ本題の重力異常について説明します。前述のとおり重力異常は補正された重力と標準重力の差のことを言います。重力異常には2種類あります「フリーエア異常」と「ブーゲー異常」です。

重力異常という言葉は英語のgravity anomaly(重力の異常)から来ており、この場合のanomaly(アノマリー)は”ずれ”を意味しており、超常現象だったり、欠如していたりといった意味ではないので注意してください。
フリーエア異常
フリーエア補正した重力と標準重力の差のことです。
この値が正であれば観測点の地下の密度が高いことを示しています。
フリーエア補正の式
”go=g+0.3086mGal/m×h(m)”
フリーエア異常の式
“Δgo=go-γo=g+0.3086mGal/m×h(m)-γo”
独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構[JOGMEC] 2008 フリーエア異常[ふりーえあいじょう] フリーエア異常 [ふりーえあいじょう]|JOGMEC石油・天然ガス資源情報ウェブサイト
上式では、フリーエア異常=実測重力+定数×標高-標準重力値 ということを示しています。
γo(標準重力値)
観測点より下の密度が高ければ(質量が大きければ)、実測重力は大きくなります。フリーエア補正では標高による重力への影響は補正されますが、密度による影響は補正されず、影響が残るため、フリーエア異常は地下の密度を反映します。
山地であれば、山地を構成する密度が比較的高い物質によって重力が強くなります。一方海洋では、海水の密度が比較的低いため、重力が弱くなり、フリーエア異常は負になります。
ブーゲー補正
ブーゲー補正した重力と標準重力の差のことです。
この値が正であれば、ジオイドより下(観測点より下ではない)の密度が高いことを示します。
ブーゲー異常の式
Δgo=g+0.3086mGal/m×h(m)-2πGρh– γο
g(実測重力) G(万有引力定数) ρ(大陸地殻の岩石の密度) h(高さ) γο(標準重力)
上式はブーゲー異常=実測重力値+定数×高さー定数×大陸地殻の岩石の密度×高さー標準重力
地下の密度が大きい場合、実測重力は大きくなるので、ブーゲー異常は正になり、密度が小さければ負になる。
海洋では、地殻が薄いのでマントルが浅いところに分布している。マントルの密度は地殻よりも高いので、地下の密度が高くなり、海上ではブーゲー異常が正になる。逆に山地ではマントルが深いところに位置するのでブーゲー異常は負になる。

海水は密度が低いから海上ではブーゲー異常が負という覚え方をしないようにしましょう! 海上でのブーゲー異常は正です!

日本付近のブーゲー異常 赤:正 青:負

アイソスタシーと重力異常
アイソスタシーが成立している場合、地下の質量はどこでも同じになるのでフリーエア異常の値は0になる。
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